※当記事は2023年12月10日にSKメルマガで配信されたコンテンツです。
MN-166によるALS治験はこれまで2つのフェーズ2a治験が完了しています。
主要な治験は70人規模のコード名「IBU-ALS-1201」であり、他方は35人規模のALSバイオマーカー治験でした。
IBU-ALS-1201では安全性と有効性を評価しましたが、現在進行中のフェーズ2/3治験(COMBAT-ALS)へ繋げるという意味において、ALS属性の分析による不確定要素の排除と、MN-166が効く被験者属性を探ることが重要な目的でした。
IBU-ALS-1201に基づく研究によると、ALSの罹病期間が600日を超えると患者ごとの進行のスピードや症状のムラが大きくなり、治療効果の評価に際して運の要素が強まってしまうことが分かりました。
また、観測開始時の罹病期間が短いほどALSFRSスコアの一ヶ月あたりの変化量が大きく、罹病期間が長いほど同スコアの同変化量は小さくなることが分かりました。
MN-166の治療効果に関しては、上記600日以内に該当する罹病期間570日以内の患者で構成されるサブグループ解析(ウィルコクソンの順位和検定)の結果、Nが少ないもののALSに対するMN-166の有効性が示唆されました(p=0.254)。
同手法は被験者の分布を検定するもので、図表1よりMN-166の分布の方がALSFRSスコアの低下度を抑制している(図表1において全体的に分布が上に偏っている)ことが見て取れます。
p=0.254ということで、MN-166の有効性に疑問を抱くかもしれませんが、これにはMN-166群とプラセボ群の被験者属性の差が影響を強く与えています。
IBU-ALS-1201に基づく研究では、観測開始時の罹病期間が短いほどALSFRSスコアの一ヶ月あたりの変化量が大きく、罹病期間が長いほど同スコアの同変化量は小さくなると言及しましたが、それ以外の特徴として、観測開始時のALSFRSスコアが低いほど、観察終了時の同変化量が小さいことが挙げられます。
そして、サブグループ解析に組み込まれたプラセボ群の被験者は、MN-166群の被験者に対して観測開始時のALSFRSスコアが低い傾向がありました。
要するに、プラセボ群の方がALSFRSスコアの変化量に関して、MN-166群よりも有利な立場に立っていました。
それにも関わらず、MN-166の有効性が示唆されたため、十分に評価されるべき結果と言えるでしょう。
有効性に対する疑問として、ALSバイオマーカー治験におけるMN-166のグリア細胞活性化抑制作用に対する否定的な結果も挙げられます。
しかし、こちらに関しても被験者の観測開始時の罹病期間が24ヶ月と600日を超えており、MN-166が効きにくい被験者が大きな割合を占めていたことが同結果の要因として考えられます。
ALSにおけるグリア細胞の活性化は、グリア細胞内のSOD1遺伝子の変異が原因と考えられています。
一方で、SOD1遺伝子変異による悪影響は細胞内のMIFが緩和することが判明しています。
MN-166は同バイオマーカー治験においてALS患者における血漿中MIF濃度を低下させる作用が認められていますが、同作用はMIFの細胞外分泌を減少させることによって細胞内MIFを増加させる作用に繋がる可能性を秘めています。
以上を踏まえると、ALS患者におけるグリア細胞に対するMN-166の作用は、SOD1変異によって変性が進んだ手遅れのグリア細胞に対しては抑制効果が得られないものの、変性が進む前のグリア細胞に対しては抑制効果が得られるものと推察されます。
図表2の通り、MN-166投与によってグリア細胞の活性化が抑制された被験者が確認されましたが、おそらく同被験者はALS罹病期間が短く、SOD1変異の影響をまだ強く受けていないグリア細胞が多く残っていたからだと思われます。
故に、ALSバイオマーカー治験におけるMN-166のグリア細胞活性化抑制作用に対する否定的な結果が得られましたが、罹病期間の短いALS患者に対してはグリア細胞活性化抑制作用は期待できるのではないでしょうか。
以上をまとめると、MN-166には「SOD1変異→グリア細胞の活性化と変性→神経細胞の損傷→ALSFRSスコアの低下」という流れを止める効果があるものの、その対象はALS罹病期間が570日以内(19ヶ月)の患者に限られます。
そのため、COMBAT-ALSでは罹病期間18ヶ月以内のALS患者に絞ることで、同治験の成功確度を飛躍的に高めているものと推察されます。
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