メディシノバ『MN-166(イブジラスト)のARDS動物モデルスタディ(Med Sci Monit、2020; 26:e922281)の解説【肺水腫編】』

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<本文は「Ibudilast, a Phosphodiesterase-4 Inhibitor, Ameliorates Acute Respiratory Distress Syndrome in Neonatal Mice by Alleviating Inflammation and Apoptosis(Med Sci Monit、2020; 26:e922281)」の解説記事となります。>

 

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メディシノバ『MN-166(イブジラスト)のARDS動物モデルスタディ(Med Sci Monit、2020; 26:e922281)の解説【スタディ方法編】』

 

<本文>

1.肺水腫

図表1の項目A〜Cの詳細は後述するとして、A:PDE4の発現水準の分析、B:HE染色による病理学的症状の分析、C:肺水腫の分析、をそれぞれ表しています。

 

A:PDE4の発現水準の分析

PDE(ホスホジエステラーゼ)は1~11に大分類され、番号ごとに異なる働きをする酵素です。イブジラストに関連するPDEはPDE4とPDE10であり、PDE4は炎症作用、PDE10はその作用は解明されていません。

GAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)は細胞へのストレスのセンサーとして働く酵素です。そして、GAPDHはストレスによる細胞損傷の回復や、細胞死を誘導することに関わっています。

GAPDHは特に、アルツハイマー病などの神経変性疾患に対する関与について、例えば同疾患患者の脳内におけるGAPDHの増加が見られたりと、多くの医学的実証が存在します。

同スタディでは健康体グループ(Normal)のPDE4とGAPDHの発現量を1とした場合に、その他三つのグループ(LPS・LPS+IBU 3.75mg/kg・LPS+IBU 7.5mg/kg)の対比を図表1のAとしてまとめています。

Aはウェスタンブロッティング法により、ターゲットとなる物質を膜に転写することで、PDE4とGAPDHを検出しています。検出し視覚化されたものが左で、数値化されたものが右となります。

なお、ウェスタンブロッティングとは、電気泳動によって分離した物質を膜に転写し、特定の抗体でその物質の存在を検出する手法のことで、その物質の量が多いほど濃く、数値は高くなります。

そしてA左部から、炎症作用のあるPDE4の量が「健康体」グループが最も少なく(薄く)、「LPS投与」グループが最も多い(濃い)ことが分かります。

また、「LPS投与+イブジラスト3.75mg / kg」と「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」を比べると「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」の方が量が少ないことから、イブジラストはPDE4の量を減らす効果があり、さらにイブジラストの投与量が多い方がよりPDE4を減らせるという仮説が生まれます。

対して、GAPDHにはどのグループにおいても変化が見られませんでした。これはイブジラストがGAPDH量の抑制に効果が発揮されていないのではなく、そもそもLPS投与による肺炎にGAPDHが関わっていない(GAPDHの量が増加しない)ことも考えられます。

しかし、残念ながら同スタディではその理由までは考察されていないため、特に同スタディではGAPDHの存在は無視して良いと判断します。

A右部は検出PDE4の発現量を数値化し統計解析をしたものです。

同スタディではまず、「健康体」グループと「LPS投与」グループにおいて、LPSを投与した場合にしっかりとPDE4が増加しているかを解析しています。

その結果、LPSを投与したマウスはPDE4が1.5倍に増加するということが立証されました(p < 0.001)。

10:10の合計20匹のデータ数においてp < 0.001となっているため、まず間違いなく増加することが分かります。

その上で、「LPS投与」グループと「LPS投与+イブジラスト3.75mg / kg」グループおよび「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」を統計解析することで、イブジラストがPDE4を減少させるかどうかを検証しています。

その結果、「LPS投与+イブジラスト3.75mg / kg」グループでは統計的に有意な結果は得られませせんでしたが、「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」グループでは統計的に「LPS投与」グループに比べ約30%のPDE4減少効果が認められました(p < 0.001)。

 

B:HE染色による病理学的症状の分析

HE(細胞質-細胞核)染色により、肺組織の炎症や出血などの組織学的変化を見ています。

HE染色は、単純に組織の形態を観察する目的で細胞核と細胞質を染色する方法であり、細胞および組織構造の全体像を視覚的に把握するために行うものです。

結果として、「LPS投与」グループ > 「LPS投与+イブジラスト3.75mg / kg」グループ > 「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」グループ の順で、出血、肺胞のうっ血、そして肺胞壁の浮腫が大きく見受けられました。

この結果はイブジラストが肺組織の出血、肺胞のうっ血、そして肺胞壁の浮腫を抑える効果があることを示唆しています。

 

C:肺水腫の分析

肺水腫スコアにより、肺損傷後の肺水蓄積量を評価することで肺水腫の程度を統計的に分析しています。

「健康体」グループの肺水腫の水準を1とした場合に、その他三つのグループ(LPS・LPS+IBU 3.75mg/kg・LPS+IBU 7.5mg/kg)の対比が表されています。

A右部と同様に、まず「健康体」グループに対して「LPS投与」グループの肺水腫の水準が悪化していいるかを統計的に解析し、約4.5倍ほどの水準悪化を立証しています(p < 0.001)。

続いて、「LPS投与」グループに対する「LPS投与+イブジラスト3.75mg / kg」グループおよび「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」グループの対比に移ります。

「A:PDE4の発現水準の分析」とは異なり、肺水腫の分析においては「LPS投与+イブジラスト3.75mg / kg」グループと「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」グループの両方で統計的な肺水腫の悪化抑制効果が立証されました。

「LPS投与+イブジラスト3.75mg / kg」グループでは約20%の悪化抑制効果(p < 0.05)、「LPS投与+ イブジラスト7.5mg / kg」グループでは約45%の悪化抑制効果(p < 0.001)の結果が得られました。

 

以上、A、B、Cより、イブジラストは(A)炎症作用物質であるPDE4の発現を抑制することで、(B)肺組織の出血、肺胞のうっ血、そして肺胞壁の浮腫の症状を緩和し、(C)肺水腫の症状に対する治療効果があると判断されました。

 

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