創薬ベンチャーの時価総額分析-Part 2 時価総額と財務項目の相関分析

創薬ベンチャーの時価総額分析-Part 1 時価総額と財務項目の大まかな関連性」で視覚化した時価総額と財務項目の数値であったが、相関関係については感覚的に捉えることが出来ませんでした。そのため、本記事では統計的手法により相関関係を定量的に分析したいと思います。

前回の記事では医薬品業種に属する68企業の時価総額と財務項目3つ(前期の売上高、総資産、純資産)の計4項目をデータとしてまとめました。

今回は統計分析としてより精度を高めるため財務項目は前期から3期前の計3期分、そして財務項目は売上高、営業利益、当期純利益、総資産、純資産の5項目を設定します。さらに売上高、営業利益、当期純利益については3期分の平均値も取り上げます。

また、本分析は製薬・創薬企業を対象にしたもののため、事業がそれとは異なる企業(栄研化学、ミズホメディー、森下仁丹、医学生物学研究所、カイノス、免疫生物研究所)は除外します。結果として62企業のデータによる分析を行います。

分析手法は時価総額と財務項目の相関関係を測るために相関分析を用います。相関分析は数学的な分析によって得られた結果(相関係数)により、AとBとの間に相関関係があるかどうかを測るものです。同分析についての説明は「使ってみたくなる統計シリーズ 第1回:相関分析」を参照下さい。

さて、相関分析によって得られた結果を図表1,2に示します。分析は製薬・創薬全体、東証一部に属する企業群、東証一部以外に属する企業群(=創薬ベンチャー企業群)の3グループに分けて行いました。

データ取得:2019/6/19
(図表1:時価総額と財務項目の相関関係 – チャート 作成:SKブログ)
データ取得:2019/6/19
(図表2:時価総額と財務項目の相関関係 – データ 作成:SKブログ)

続いて得られた結果(相関係数)の考察を行います。相関係数が基準となる値以上の場合、AとBとの間に相関関係が認められます。

その基準について、一般大衆向けの書籍やインターネット上では0.2~0.7以上といった基準値が広まっています。しかしそれは非常に乱暴な定義のため、まずはこの場を借りて相関係数の基準値を明確にしていこうと思います。

医薬品業種銘柄に投資している投資家の皆様はP値という統計用語を目にしたことがあるはずです。P値は簡単に一言で説明すると「期待している事象が起こらない確率」です。

例えば創薬治験において、治験薬がプラセボ(偽薬)と比較して治療効果が認められた(P値=0.01=1%)という結果が得られた場合、1%の確率で治療薬がプラセボと比較して治療効果が認められない事象が起こります(逆説的に99%の確率で治療効果が認められる→ほとんどの患者に対して治療効果を発揮する)。

さらに、得られた結果が統計的に十分に信頼を置けるかどうかの基準を有意水準といいます。この水準は分析内容に合わせて初期に設定するものです。

創薬治験では基本的には有意水準を0.05(5%)と設定していて、P値が0.05を下回った場合に限り、得られた治験結果を統計的に信頼の置ける数値として用いることが出来ます。

上記を踏まえ、相関係数の有意水準を0.01、0.05、0.10(1%、5%、10%)と3つ設定し、それぞれの水準とデータ数との観点から2つの間に相関関係が認めれる相関係数の基準を算出していきます。その際用いる検定手法はt検定です。t検定の詳細は「t検定の考え方」を参照して下さい。

(図表3:相関係数と有意水準 – データ数 = 100 作成:SKブログ)
(図表4:相関係数と有意水準 – データ数 = 100 作成:SKブログ)

図表3,4は統計ソフトRにおいて有意水準を満たす相関係数をデータ数ごとに算出しプロットしたものです。図表3は本記事の分析において見やすいようにデータ数の上限を100にしたものです。図表4はデータ数の上限を1000としました。

0.2~0.7で相関関係が認められるという一般向けの情報を上記図表に照らし合わせると、その意味するところは有意水準0.01の条件下でデータ数10~200の場合に限るということになります。しかし実際はデータ数によって相関関係が認められる相関係数は変わってくることに注意が必要です。

さて、本記事の分析に話を戻します。本記事では3つのグループにおいてそれぞれ分析を行いました。

そして有意水準を0.01とした場合、製薬・創薬全体(62銘柄)は相関係数=0.32、東証一部(38銘柄)は相関係数=0.41、東証一部以外(24銘柄)は相関係数=0.52 が基準値となり、それぞれの数値以上において相関関係が認められます。

それらを考慮し有意水準0.01下において相関関係が認められる項目を青色背景で図表5に示します。

データ取得:2019/6/19
(図表5:時価総額と財務項目の相関関係 – 有意水準0.01 作成:SKブログ)

以上の分析により、製薬・創薬全体、そして東証一部上場銘柄では全ての項目が時価総額と相関関係があることが分かりました。

東証一部においては時価総額の大きさや流動性の高さから事業内容および財務が適切に評価され時価総額に反映されていることが理由として上げられるのではないでしょうか。

また、製薬・創薬全体も、東証一部上場銘柄が全体の時価総額の大部分を占めることで、全体≒東証一部という論理が成り立っていることが考えられます(図表6)。

(図表6:時価総額の市場ごとの割合 作成:SKブログ)

東証一部以外(=創薬ベンチャー企業群)においては、売上高、営業利益、当期純利益と時価総額の間に相関関係が基本的には無いと考えて良さそうです。それよりも、資産を直接的に増やす新株発行をよりポジティブに捉えるべきかと考えます。

また、契約一時金やマイルストーンなど単発的に発生する収入も、資産額と比較して額が小さく資産に大きなインパクトを与えない限りは提携先や提携内容に関わらず、時価総額に与える影響は無いと考えられます。

よって、財務内容から判断する場合においては、安定的に資産を拡大出来るだけの売上を計上しない限り、創薬ベンチャー投資は資産ベースでの時価総額判断がより精度の高い判断になり得ます。

次回は今回の分析内容を基に財務項目だけでなく、マーケットの影響も考慮した創薬ベンチャーの時価総額分析を行っていきたいと思います。

<参照>
・銘柄データ(ヤフーファイナンス)

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