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バイオジェンのMS(多発性硬化症)治療薬テクフィデラ(一般名:フマル酸ジメチル)は、その莫大な売上規模にも関わらず特許による権利保護のパワーに長年疑問が投げ掛けられていました。
そして2020年6月18日、ついにバイオジェンが保有するテクフィデラの特許(US8399514B2)に対して無効の判決がウエストバージニア州の連邦地方裁判所により下されました。
テクフィデラは2019年度の通年売上高約44億ドルを誇り、バイオジェンの同年度売上高約114億ドルの38.6%を占めます。
同社のテクフィデラに対する特許保護は1つの物質特許と2つの用途特許で構成されています(厳密には「いました」)。
<バイオジェンのテクフィデラに対する特許>
1.Dimethyl fumarate for the treatment of multiple sclerosis(US7320999B2)
・性質:物質特許
・期間:1998年11月〜2018年11月
・対象疾患:多発性硬化症
・現状:特許失効(2020年5月)
2.Treatment for multiple sclerosis(US8399514B2)
・性質:用途特許
・期間:2007年2月〜2027年2月
・対象疾患:多発性硬化症
・補足:フマル酸ジメチル、または / および、フマル酸モノメチルの混合量480mg / 日
・現状:特許失効(2020年6月:地方裁判所判決)
3.Utilization of dialkylfumarates(US7619001B2)
・性質:用途特許
・期間:1998年11月〜2018年11月
・対象疾患:多発性硬化症
・補足:フマル酸ジメチル、または / および、フマル酸水素メチルの混合療法
・現状:特許失効(2019年10月)
*期間は申請日時点のものであり、延長は含めず。
テクフィデラの特許問題を理解する上で重要な点は、同薬剤の一般名であるフマル酸ジメチルが1959年に既に乾癬(かんせん)治療薬として用いられていたことです。
この事実がフマル酸ジメチルに関する特許を取得する上での「発明の新規性」に関わります。
では、上記特許群の解説に移ります。
特許「1.Dimethyl fumarate for the treatment of multiple sclerosis(US7320999B2)」は2018年11月まで特許期間が有効でした。
しかし、二度目の延長申請の承認が得られず2020年5月を以て特許失効となりました(なお、一度目の延長申請は承認された)。
この延長申請の非承認に大きく関わっているのが、今回の特許(US8399514B2)無効判決の原告でもあるジェネリック医薬品会社のマイラン(MYLAN PHARMACEUTICALS INC)です。
マイランはバイオジェンの特許(US8399514B2)に対して無効のクレームを申請した張本人ですが、特許「1.Dimethyl fumarate for the treatment of multiple sclerosis(US7320999B2)」に対してはバイオジェンからテクフィデラに関して特許侵害として訴えられて過去があります。
その裁判においてマイランから提示された論拠が、同特許の延長審査に対してネガティブに作用したと見られています。
また、日本の製薬会社である沢井製薬も同特許に関わっています。
沢井製薬の米国子会社であるサワイUSAは、2017年6月にテクフィデラのジェネリック医薬品に関するANDA(医薬品簡略承認申請)をFDA(食品医薬品局)に提出し受理されました。
さらに沢井製薬は特許(US7320999B2)に対して、パラグラフⅣと呼ばれる先発品の関連特許が無効であることなどを記載した証明書を添付したため、他社に先駆け後発品を独占的に180日間販売できる権利も付与されました。
しかし、特許(US8399514B2)が無効判決を受けた今、特許(US7320999B2)に対してのパラグラフⅣ付ANDAの受理を受けた沢井製薬による現在進行中の独占的な180日間販売の恩恵をフルに受けられるのかは不明です。
特許「3.Utilization of dialkylfumarates(US7619001B2)」は、特許「1.Dimethyl fumarate for the treatment of multiple sclerosis(US7320999B2)」と同時期に申請を出した特許です。
これは特許(US7320999B2)に対するリスクヘッジの目的で出されたものです。
メディシノバもALSおよびその他の神経変性疾患に対してMN-166とリルゾールの混合療法に関する特許を取得していますが、特許(US7320999B2)の意味合いはこれに類似しています。
そして、ウエストバージニア州の連邦地方裁判所により無効の判決が下った「2.Treatment for multiple sclerosis(US8399514B2)」は「3.Utilization of dialkylfumarates(US7619001B2)」をアップデートしたものです。
しかし、このアップデートは2019年10月に失効した特許(US7619001B2)から容易に想像出来るものであり、発明の新規性の観点で不十分であったことが「発明の新規性の喪失」となり今回の特許無効判決に繋がりました。
同特許の無効判決はバイオジェンの株価に対してネガティブな影響を与えたことは言うまでもありません。
2020年6月17日の終値281.46ドルから翌日18日は終値260.30ドルまで約7.6%の大幅な株価下落に繋がりました。
しかし、実際の判決は6月18日になされたものの、2019年11月13日に行われた同特許に対する審理において特許無効の可能性は十分に捉えられました(11月13日から15日の二日間で株価終値:294.14ドル→275.15ドル)。
今回の裁判が地方裁判であること、そして上記観点からも、今回の特許無効判決の影響はほとんど消化したと考えます。
同判決によりマイランはじめ、いくつかのジェネリック医薬品会社がフマル酸ジメチルによるMS治療薬の販売を始めることは確実です(少なくとも29社は既にFDAからの販売承認取得済み)。
今年度からバイオジェンは総売上の38.6%を占める主力製品の売上維持と特許裁判で苦しい時期を過ごすことになると思いますが、果たしてどういった結末を迎えるのか注目です。
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