製薬・創薬業界『塩野義製薬の抗インフルエンザ薬ゾフルーザと中期経営計画の行方』

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<当記事は2020年5月17日にSKメルマガで配信されたコンテンツです。>

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塩野義製薬は2020年5月11日に2019年3月期決算発表を行いました。

・2019年度決算 記者会見資料
http://www.shionogi.co.jp/ir/pdf/p200511.pdf

 

決算内容としては売上高3,350億円、営業利益1,252億円、当期純利益1,213億円と、過去三年の平均値とほぼ等しい着地地点となりました。

安定した業績と言えば聞こえはいいですが、同社は2020年に向けた成長戦略SGS2020を掲げているため、塩野義製薬の株主の立場では到底受け入れられるものではないと感じています。

・SGS2020定量目標

成長性KPI:新製品売上2,000億円、経常利益1,500億円
効率性KPI:ROIC15%以上、CCC7ヶ月、自社創薬比率50%以上
株主還元KPI:ROE15%以上、DOE4.0%以上

*ROIC:投下資本利益率 = 税引後営業利益/(有利子負債 + 株主資本 + 非支配株主持分)
*CCC:売上債権回転期間 + 棚卸資産回転期間 – 支払債務回転期間

 

塩野義製薬の2019年度業績に対して、同社株主はネガティブな印象を受けていると申し上げましたが、SGS2020定量目標の大部分に関しては既に達成している項目も多く、そこまでネガティブに捉える必要は無いかもしれません。

しかし、項目の大部分において既に目標達成をしているとは言うものの、最も重要な項目である新製品売上は2020年度に達成することは難しいでしょう。

その大きな理由が抗インフルエンザ薬ゾフルーザの耐性ウイルス発生問題の影響です。

ゾフルーザは新規性のある作用機序による抗インフルエンザ薬として注目されました。

既存薬が細胞内で増殖したウイルスが細胞外に広がるのを防ぐことで効果が得られますが、ゾフルーザは細胞内でウイルス自体の増殖を抑制することで効果を発揮します。

そのため、既存薬に比べてより高い効果が期待でき、臨床試験では体内からインフルエンザウイルスが排出されるまでの時間がタミフルの72時間に対してゾフルーザは24時間でした。

よって、インフルエンザ治療薬市場のシェアをゾフルーザが圧倒的に占めていくだろうと想定されていました。

2019年1-3月の計三ヶ月で164億円を計上し、さらにインフルエンザ治療薬として上市していたゾフルーザをインフルエンザ予防薬(ワクチンの様な用途)としても承認を目指していたこともあり、国内年間売上1,000億円以上を狙える状況下でした。

しかし、2019年3月に国立感染症研究所がA香港型インフルエンザ患者の7割で耐性ウイルスが検出されたと発表したことで事態が一変し、ゾフルーザの処方が激減しました(2020年1-3月の売上は1億円)。

ゾフルーザによる耐性ウイルス問題の解決に向かいたい塩野義製薬は医療機関にMRを派遣し医師のゾフルーザに対する理解を高めようと尽力しましたが、追い打ちをかけるように新型コロナウイルスの発生により、その策も潰えました(同決算説明会において同社副社長は「MRが医療機関を訪問して話をする機会は確実に減ると考えている」とコメントを残しています)。

以上より、ゾフルーザの展望は非常に苦しく、耐性ウイルス問題や昨今の自粛によるインフルエンザ感染症リスクの低減により、ゾフルーザの売上は全く当てにならない状況です。

ゾフルーザを除く新製品売上で年間売上200億円を見込める製品は鬱病・疼痛治療薬のサインバルタのみであることや、(予防薬としてのゾフルーザを除く)国内承認が近々される開発品が無いことからも、成長戦略SGS2020にて掲げる新製品売上2,000億円の達成は困難であると考えます。

 

<参考文献>
・中期経営計画SGS2020
http://www.shionogi.co.jp/company/plan.html

・塩野義製薬 2020年3月期決算(補足資料)
http://www.shionogi.co.jp/ir/pdf/hos20_05.pdf

・開発品リスト
http://www.shionogi.co.jp/company/g0l2sg0000004msm-att/pipeline.pdf

 

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